在宅勤務の従業員に「出社」を命じることはできるのか?

柔軟な働き方として普及した在宅勤務(テレワーク)ですが、「生産性が上がらない」「コミュニケーション不足で業務が滞る」といった課題も浮き彫りになっています。経営者の中には、「在宅勤務をやめさせて、オフィスに戻ってほしい」とお考えの方も多いのではないでしょうか。

弁護士 久保

今回は、在宅勤務を解除して出勤を命じる際の法的な注意点と対策について解説します。

1. 原則は「会社に出向いて働くこと」

法律の考え方では、従業員が働く義務を果たす場所は、原則として会社の所在地(オフィス)とされています(民法484条の「持参債務」の考え方)。

そのため、特別な契約がない限り、会社が従業員に「出社して働きなさい」と命じる権利(出勤命令権)を持っているのが大前提です。

2. 「自宅が勤務地」と決まっている場合は要注意

ただし、採用時の約束や契約書で「勤務地は自宅」と明確に定められている場合は話が変わります。この場合、会社が一方的に「明日から毎日出社しなさい」と命じるには、就業規則に根拠があることや、業務上の強い必要性が求められます。

裁判例のポイント(東京地裁令和4年11月16日判決) 契約書上の就業場所が「本社」となっていても、採用経緯から「原則として自宅が勤務地」とみなされたケースがあります。この裁判では、会社側が在宅勤務を解除するには「業務上の必要性が認められる場合に限る」と判断されました。

3. 「在宅勤務は既得権益」という誤解を防ぐ

コロナ禍をきっかけに、明確なルールを決めないまま在宅勤務が定着した会社も少なくありません。その結果、従業員から「ずっと家で働く権利があるはずだ」と主張されるリスクもあります。

しかし、雇用契約上で在宅勤務が権利として保障されていない限り、在宅勤務を認めるかどうかは会社の裁量(判断)に委ねられるべきものです。出社を促す際は、制度の趣旨を説明し、納得感を得られるよう丁寧にコミュニケーションを取ることがトラブル回避の近道です。

4. トラブルを防ぐための「在宅勤務規程」のポイント

今後、スムーズに指揮命令を行うためには、以下の内容を規程に盛り込んでおくことが有用です。

許可制の徹底:在宅勤務は「届出」ではなく、会社の「許可」が必要であると明記する。

許可取消の明文化:業務上の必要性がある場合、会社は許可を取り消し、指定場所での勤務を命じることができると定めておく。

評価基準の設定:コロナ対策としてではなく「多様な働き方」として位置付け、「勤務評価」や「生産性」が低下した場合には許可を取り消す運用を明確にする。

まとめ

在宅勤務の解除や出勤命令は、契約内容や運用の実態によって判断が分かれる繊細な問題です。従業員のモチベーションを保ちつつ、適正な業務管理を行うためには、まずは現在の就業規則や雇用契約書の見直しから始めることをお勧めします。

「在宅勤務のルール作り」や「出勤拒否への対応」でお困りの際は、当事務所までお気軽にご相談ください。

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