「昔は普通だった」は通用しない?暴言とパワハラの判断基準

弁護士 久保

「部下に『バカ』と言ってしまった。これってパワハラですか?」
経営者や管理職の方から、よく受ける質問です。

「ついカッとなって、部下に強い言葉を投げてしまった」 現場のリーダーなら、一度はそんな経験があるかもしれません。

しかし、その一言が「パワハラ」として裁判沙汰になるリスクは常に隣り合わせです。

今回は、2025年(令和7年)に出された裁判例を交え、職場でよく問題になる「暴言」の法的リスクと、マネジメントにおける注意点を解説します。

「バカじゃないの」という発言はパワハラか?

最新の裁判例(東京地裁令和7年2月17日判決)では、医薬品会社に勤める職員が、上司の発言などでうつ病を発症したとして、その業務起因性(仕事が原因かどうか)が争われました。

問題となったのは、上司が部下の相談を受けた際、声が小さかったことに対して放った次の言葉です。

「え?聞こえないよ」「もっと大きな声で言ってよ」「気にしすぎ」「バカじゃないの」

このケースに対し、裁判所は次のような判断を下しました。

  1. 不適切な発言であることは間違いない。
  2. しかし、強く怒鳴るようなものではなかった。
  3. さらに、一回限りの発言であり、執拗に繰り返されたわけではない。

結果として、この発言だけで「過度な心理的負担を与えた」とは認められませんでした。

つまり、たった一回の不適切な一言が、即座に法的な責任(損害賠償など)に直結するわけではない、という現実的な判断が示されたと言えます。

「あほ」と言っても許される例外がある?

別の裁判例(大阪高裁平成25年10月9日判決)では、指示通りに動かなかった部下に対し「あほ」と叱責したことが争点となりました。

裁判所は、「あほ」という言葉は指導として不適切であると断じつつも、興味深い補足をしています。

それは、「事態に重大な緊急性があり、部下に重大な落ち度があるような例外的な場合」を除いては不適切である、という点です。

例えば、一刻を争う人命に関わる現場や、会社に甚大な損害が出る直前の場面で、反射的に強い言葉が出てしまったようなケースであれば、情状酌量の余地があるかもしれません。

しかし、日常的な業務指導の中でこれらの言葉を使うことは、もはや「時代遅れ」であり、リスクしかありません。

実務上のアドバイス:言葉の「中身」ではなく「回数と態様」

法律実務の視点から言えば、「バカ」「アホ」という言葉自体が直ちにパワハラと認定されるわけではありません。

判定のポイントは以下の3点に集約されます。

● 回数: 1回きりか、それとも執拗に繰り返されているか。

● 態様: どのようなトーン(怒鳴り声など)で、どのような状況で言ったか。

● 文脈 相手のミスに対する正当な指導の範疇を超えて、人格を否定していないか。

一度口走っただけで即アウトとはなりにくいものの、相手がメンタル不調を訴えれば、裁判でその一言が有力な証拠として扱われることになります。

まとめ:指導に「暴言」というスパイスはいらない

「昔はこれくらい当たり前だった」という感覚は、現代のビジネスシーンでは通用しません。

たとえ裁判で「パワハラには当たらない」と判断されたとしても、部下との信頼関係が崩れ、優秀な人材が離職してしまえば、企業にとっては大きな損失です。

指導の際は、感情を言葉に乗せるのではなく、「具体的にどの行動を改善してほしいのか」という事実のみを伝える習慣をつけましょう。

ハラスメントへの対応などでお困りの際は、お気軽に弊所へご連絡ください。

弁護士の視点から、貴社に最適な解決策をご提案いたします

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