2026年4月、労働安全衛生法の改正により、60歳以上の労働者に対する「労働災害防止対策」が事業主の努力義務となりました(労働安全衛生法第62条の2)。これまでは「個人の注意」に頼っていた安全管理を、これからは「企業の仕組み」として整える必要があります。
弁護士 久保今回は、「企業の仕組み」としての「労働災害防止対策」ついて、法律の観点から分かりやすく解説します。
1. なぜ今、法改正が行われたのか
背景にあるのは、高齢労働者の労災事故の急増です。2026年現在の統計でも、転倒や腰痛といった事故は、高齢になるほど発生率が高く、重症化しやすい傾向にあります。 「長年やってきたベテランだから大丈夫」という過信が、取り返しのつかない事故につながるケースも少なくありません。今回の改正は、経験を過信せず、身体機能の変化を前提とした職場づくりを求めています。
2. 具体的に何をすればいい?「エイジフレンドリー」な職場づくり界線
法律が求める「努力義務」の内容は、厚生労働省の「高年齢者の労働災害防止のための指針」がベースとなります。中小企業でもすぐに取り組めるポイントは以下の3点です。
■ 職場環境のハード面の見直し
・床の段差をなくす、または目立つ色でマークする
・作業場所の照明を明るくし、視認性を高める
・滑りにくい靴や床材を導入する
■ 作業内容のソフト面の見直し
・重いものを一人で持たせない、補助器具(台車等)を積極的に導入する
・無理な姿勢が続く作業時間を短縮し、休憩をこまめに挟む
・夜勤や長時間の連続勤務を見直す
■ 健康・体力状況の把握
・定期健診の結果に基づき、身体機能に不安がある場合は、産業医等の意見と本人との話し合いを踏まえて、配置転換などを行う
・健康を保持するための措置(例えば、始業前のストレッチ)や、簡単な体力チェックを推奨する
3. 「安全」は最大の福利厚生
「努力義務なら、まだ何もしなくてもいいだろう」と考えるのは禁物です。万が一、対策を怠った状態で労災事故が発生した場合、会社が「安全配慮義務違反」を問われ、損害賠償を請求される可能性も否めません。 逆に、「高齢者が安心して働ける職場」であることは、採用難の時代において大きな強みになります。
ベテラン社員皆さまの経験を安全に活かせる環境を、今から整えていきましょう。

